「思いやり」は測定できるのか——Condonらの巧妙な実験

瞑想が「思いやり」や「共感」を高めるという話はよく聞きますが、その多くは本人へのアンケート、つまり自己報告に基づいています。「瞑想をした人ほど自分を優しい人間だと評価する」という結果だけでは、実際の行動が変わったのかまでは分かりません。

Condon P、Desbordes G、Miller WB、DeSteno D(2013)が Psychological Science に発表した「Meditation increases compassionate responses to suffering」は、自己報告ではなく実際の援助行動を測定することで、この問いに答えようとした実験です。

実験デザイン:「たまたま」出会う苦しむ人

参加者は8週間の瞑想トレーニングを受ける群と、まだ受けていない待機群に無作為に割り付けられました。重要なのは、実験の目的が参加者に知らされていない点です。

参加者は「観察されている」とは知らないまま行動するため、社会的に望ましい回答をしようとするバイアスが入り込みにくい設計になっています。

結果:見て見ぬふりをしなかった瞑想群

研究では、瞑想トレーニングを受けた参加者は、待機群と比べて著しく高い割合で自分の席を譲るなどの援助行動を示したと報告されています。瞑想群では50%(20人中10人)が席を譲ったのに対し、待機群では16%(19人中3人)にとどまり、この差は統計的に有意で(p=.02)、割合にしておよそ3倍にのぼりました。

特に注目されるのは、この研究では「マインドフルネス瞑想」と「慈悲の瞑想(コンパッション瞑想)」という2種類のプログラムが用いられ、参加者はどちらかに無作為に割り付けられていた点です。他者への思いやりや苦しみを明示的に扱ったのは慈悲の瞑想のみで、マインドフルネス瞑想では呼吸への集中など基本的な技法だけが指導されました。ところが援助行動の頻度は、この2つのプログラムの参加者の間で統計的な差が見られませんでした。これは、席を譲るという行動の増加が「思いやりを持つよう明示的に教え込まれたから」という単純な暗示効果だけでは説明できず、瞑想という実践そのものがより広く援助行動に関わっている可能性を示しています。

なぜ「行動」に表れたのか

論文では、この結果の背景として、瞑想トレーニングが他者の苦しみへの気づきや反応性を高めた可能性が議論されています。とりわけ、周囲に人がいるときに援助行動が抑制されがちな「傍観者効果」を、瞑想が和らげた可能性が指摘されています。他のサクラが動かないのを見て「自分も動かなくていい」と流されるのではなく、目の前の苦しみそのものに注意が向きやすくなったという解釈です。

研究チームはまた、瞑想群が毎週顔を合わせるクラス形式で実施されたことで、参加者同士の社会的なつながりが単純に増え、それが援助行動の増加につながったのではないかという可能性も検証しています。参加者の交友関係の広さをトレーニング前後で調べたところ、瞑想群で交友関係が有意に増えたわけではなく、待機群との間にも有意差は見られませんでした。この結果は、援助行動の増加が単なる「グループ活動を通じたつながりの副産物」ではなく、瞑想の実践そのものと関連している可能性を裏付けています。

この結果が意味深いのは、瞑想がとっさの場面での実際の振る舞いにまで影響しうることを、自己報告ではなく客観的な行動観察によって示した点です。

行動観察に基づく実験は、自己報告に基づく調査に比べて手間もコストもかかりますが、「本人が気づかないレベルでの変化」を捉えられるという強みがあります。Condonらの研究は、瞑想研究において行動指標を用いることの価値を示した先駆的な例としても位置づけられています。

慈悲の瞑想を日常に取り入れる

Condonらの研究で用いられた具体的なプログラムの詳細は論文に譲るとして、一般的に「思いやり」を育てる実践として広く使われているのが慈悲の瞑想(loving-kindness meditation)です。自分・親しい人・中立的な人・苦手な人・すべての存在へと対象を広げながら、「安全でありますように」「穏やかでありますように」といった言葉を静かに心の中で繰り返します。

詳しい手順は慈悲の瞑想とポジティブ感情に関する記事で解説しています。瞑想タイマーで10〜15分の時間を確保し、まずは自分と親しい人だけを対象に始めてみるとよいでしょう。

一つの実験が示す意味と限界

この研究は巧妙な設計により実際の行動変化を捉えた点で評価されていますが、単一の実験室実験である以上、いくつかの留保が必要です。

それでも、自己申告に頼らず実際の行動を測定したという設計上の工夫は高く評価されており、瞑想と向社会的行動の関係を扱ったその後の研究の重要な足がかりとなっています。

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