「瞑想で脳が変わる」の原点——2005年Lazarらの発見

「瞑想は脳の構造を変える」という考え方は、今でこそ広く知られていますが、その出発点をたどると2000年代半ばの一つの小さなMRI研究に行き着きます。当時、成人の脳の構造が経験によって測定可能なレベルで変わりうるという考え方自体、まだ広く受け入れられていませんでした。

Lazar SW、Kerr CE、Wasserman RH、et al.(2005)が NeuroReport 誌に発表した「Meditation experience is associated with increased cortical thickness」は、瞑想実践者の脳を初めてMRIで詳しく調べ、非実践者との構造的な違いを報告した画期的な研究です。

研究デザイン:熟練瞑想者と非瞑想者の脳を比較

研究では、平均9年ほどインサイト瞑想(ヴィパッサナー瞑想の流れを汲む、内的な感覚への集中を特徴とする瞑想)を実践してきた熟練者のグループと、年齢などの背景をそろえた非実践者のグループを対象に、構造MRIで脳の皮質の厚さを測定し、両群を比較しました。横断的な比較研究であり、同じ人を時間を追って観察した研究ではありません。

主な発見:注意と内受容に関わる領域が厚い

前頭前野:注意に関わる領域

研究では、注意の制御に関わるとされる右前頭前野の一部(右の中前頭溝・上前頭溝付近、ブロードマン9/10野)で、瞑想実践者の皮質が非実践者よりも有意に厚いことが報告されました。長年にわたり注意を対象に向け続ける訓練を積んだことが、この領域の構造と関連している可能性が議論されています。

右前部島皮質:内受容・感覚処理に関わる領域

もう一つ注目されたのが、自分の身体の内部状態を感じ取る「内受容」に関わるとされる右前部島皮質です。この領域でも瞑想実践者の皮質が厚い傾向が報告されており、瞑想における身体感覚への意識づけとの関連が示唆されています。

加齢による皮質の菲薄化パターンとの関連

論文ではさらに、年齢を重ねた瞑想実践者の一部の領域における皮質の厚さが、若い非実践者に近い水準を示していたことも報告されており、瞑想経験と加齢に伴う皮質の菲薄化パターンとの関連が示唆的に論じられています。ただしこれはあくまで横断データからの示唆であり、加齢を止める・遅らせるという確定的な証拠ではありません。

なぜ画期的だったのか

この研究が発表された当時、成人の脳が経験によって構造レベルで変化しうるという「神経可塑性」の考え方は、現在ほど広く定着していませんでした。瞑想という日常的な心理的実践と、MRIで検出可能な脳構造の違いを結びつけて示したことは、瞑想研究を神経科学の主流の議論に押し上げる一つのきっかけとなりました。

この研究をきっかけに、瞑想と脳の関係を調べる研究が世界的に広がり、後には同じ研究グループによる8週間のマインドフルネスプログラムを追跡した縦断研究(Hölzel 2011)など、より因果関係に迫る手法を用いた研究へとつながっていきました。

神経可塑性という概念自体は、それ以前から運動学習や楽器演奏などの分野で議論されていましたが、静かに座って行う瞑想という一見地味な実践が、脳の測定可能な構造と結びつくという報告は、当時の研究者にとって意外性のある知見でした。この意外性こそが、その後多くの研究グループが瞑想と脳の関係に関心を向けるきっかけの一つになったと言われています。

相関と因果:この研究が示さなかったこと

Lazarらの研究は横断的な比較研究であるため、いくつか慎重に読むべき点があります。

これらの限界は、その後の研究デザインを改善する原動力にもなりました。実際、8週間の介入前後でグループ差ではなく個人内の変化を追跡した後続研究群は、この研究が投げかけた問いに答える形で発展しています。

この発見のその後

2005年のこの報告を起点に、瞑想と脳構造の関係を扱う研究は着実に積み重なってきました。Fox 2014のメタ分析では、複数の研究を統合する形で、瞑想によって構造的な変化が報告されている脳領域が整理されており、Lazarらが示した知見がその後どのように発展していったかをたどることができます。

一つの小規模な横断研究が、その後20年近くにわたる研究の流れを方向づけたという点で、Lazarらの2005年の報告は、瞑想科学の歴史を語る上で欠かせない一本の論文として位置づけられています。

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